これからの岸和田徳洲会病院の統一
危篤状態たったため、二次感染に関する情報が人手しにくく、それにかおるものとして、県民に抗体検査を呼びかけた。
前年に出されている厚生省の通達で、二次感染の恐れ、かおる時には、主治医が調査できることになっていた。
主治医は筆談で患者から話を聞いている。
Y.H本部長は続けて、「いたずらな不安を与えないということは、私たちの役目ですから。
個人が特定されるのではないか、について考えていないことはなかったが……難しいことです。
五三〇万住民の気持ちを考える、今回は特にそれが表に出たんでしょうな……」厚生省の感染症対策室でも、「神戸事件」では行政サイドの問題はなかった、として、むしろエイズ情報の伝達効果を評価している。
一方、神戸市エイズ対策本部の吉川正本部長は、「神戸市エイズ対策本部が患者と接触した男性を調査した事実はない」と否定したうえで、エイズ対策にとってプライバシーを守ることがいかに重要かを強調した。
「もし見つかったら、社会的に葬られる。
そう思えば潜りもし逃げもするでしょう。
捕まらないように必死になると思います」話のニュアンスには県と市の不協和音が感じられたが、両者とも人権侵害など問題があるとすれば、それはマスコミの過剰報道にある、と主張した。
しかし取材中に役所内部から「マスコミへの情報は意図的に流されたもので、マスコミがどれくらい二次、三次感染をつきとめるのかを期待してのこいたった」と耳うちしてくれた人もいた。
「内では常識ですよ」とも言われた。
しかし、この真偽は確かめられなかった。
おそらく初めから意図された。
“情報操作”というよりは、売春によってエイズが広く市民の家庭に広がっていくのではないか、という恐怖が行政サイドの危機感を煽り、結果として詳細な情報提供につながったのではないかと思う。
行政当局が抱いた危機感と同じものは、マスコミのなかにも強かった。
取材に走った記者の一人は当時をふりかえって、「時問がだってみると、何故あんなに燃えて彼女の交友関係を追トかけだのが、不思議な気もするが、各社、殺気立っていた。
他社に負けたくないという気持ちと、このままでは日本もたいへんなことになる、という恐怖を感じていた」と語った。
患者の写真を掲載した写真週刊誌の編集部は、テレビカメラによるインタビューに応じてくれなかったが、訪ねていくと「行政の対応が生ぬるく、二次感染防止のための具体的な情報を出さなかったから、われわれが提供した」と語ってくれた。
「一人のプライバシーより九九人の命の方が重いのではないか。
ご本人は亡くなっている。
故人にプライバシーがあるかどうか。
ご遺族には気の毒だが、一人は死んでいる。
九九人は生きており、三次感染の可能性も含まれているのです。
メリットの方が大きいとわれわれは判断しました」行政当局の考え方と報道側の考え方に、大きなズレはない。
「一人のプライバシーより九九人の命」という言葉を、今回、読みかえした取材ノートのなかに発見して改めてそう思った。
当時、社会防衛論的な立場から、「エイズ感染者は国家が管理しなければならない」と言って強硬にエイズ予防法を推進した自民党の政治家が、「一人の人権を守るために九九人の生存権を侵害してもいいのか」と発言していた。
官民一体となって、社会防衛論に走っていたのだ。
エイズのことがわかってくると「一人のプライバシーや人権を守れなければ、九九人の命も守れない」というのがエイズという病気の個性であるとはっきり言うことができる。
しかしエイズについて学ぶ前だったら、社会防衛論の危険性にどれくらい気づいただろうか。
私自身、その時神戸で取材にあたっていたら、はたしてどう行動しただろう。
好奇心と熱気にあおられて、多くの同業者と同じような行動をとっていたのではないかと思った。
それは、エイズに関してあまりにも無知で、患者や感染者のおかれている状況を想像できなかったからだ。
しょせん、”他人ごと”だったからだ。
エイズパニックの実態が少しずつ見えていくうちに、これは報道する側にいる自分白身につきつけられた問題であること、がわかってきた。
血友病の感染者や、亡くなったA子さんとその遺族の“味方”になるつもりで行政機関、報道機関に乗りこんでいったものの、パニックの被害者の怒りや問いかけはマスコミで働く一人ひとりに向けられているものであり、自分も例外ではないのだ。
根拠が薄弱なまま“売春婦”にされてしまった女性がエイズで死んだ。
売買春が日常的に公然と存在している日本社会は驚きあわてて、大混乱に陥った。
そのためエイズという病名は、全国津浦にゆきわたったり、怖い病気だという認識が広まった。
同時にエイズに感染したら、人権もプライバシーも無視されて社会の指弾を受けることも“周知”された。
これが日本の「エイズ元年」だった。
エイズパニックは、様な国で起きている。
ひとつの社会が、この新しい病気の脅威を感じ、多くの人が自分にも感染の可能性があることに気づきはしたものの、病気についての知識や理解が不足している時、何とか自分だけは感染を免れようと過剰防衛にはしる。
エイズパニックを最初に経験したアメリカ社会では、これまでに何度も全国規模のパニックにみまわれている。
それは権威ある医学誌のひとつ『A医学協会会報』に載った一つの論文が発端だった。
J医学博士らの研究Dは、ニュージャシー州で、感染者の家庭に生まれた八入の子どもがエイズを発症したと報告し、「ハイリスク世帯の子どもはエイズにかかりやすく、性的な接触、麻薬の乱用、あるいは血液製剤に触れるこいたけが感染の原因になるとはかぎらない」と結論づけた。
その後これは、母子感染によるものだと解釈され、家庭内での日常的な接触で感染したケースはまだ一例も確認されていない。
当時も、この論文の解釈に対して、疑問い批判の声をあげた研究者やジャーナリストは存在した。
しかし「一般人にも感染のおそれあり」はニュースとして全米に伝えられ、大きなパニックをひきおこしたのである。
犯罪の犠牲者からの感染の恐怖にかられた警察官は、酸素マスクを着用した。
消防士たちもマスクとゴム手袋を着けるようになった。
刑務所の囚人たちが、エイズで死んだ受刑者と同じ食器を使うことを拒否して、ハンガーストライキを始めた。
葬儀関係者が、エイズ犠牲者の死体を扱うのを拒否した。
シルツは「第二の流行病、すなわち恐怖という病が蔓延しはじめたのである」と書いている。
そのころにはエイズのあらゆる感染経路が確実に把握されており、少なくともCDCの科学者はエイズの感染の仕方を的確に理解していたのである。
にもかかわらず、家族間の日常の接触に関する報告は根拠のない情報に科学的信頼性を与えて恐怖心をあおり、何年ものあいだ社会に悪影響を与えつづけることになった。
日本のマスヲ九がアメリカのエイズパニックとしてしばしば取り上げたのは、エイズに感染した子どもの通学問題だった。
アメリカの血友病患者の八〇%は、エイズに感染していると言われている。
子どもの感染者も多い。
そのシンボル的存在が、一九九〇年に一八歳で亡くなったインディアナ州のR君だった。
一九八五年、彼は通っていた中学校から、他の生徒への感染の恐れを理由に登校を拒否された。
彼はこれを不当だとして訴え、裁判所も一時は就学を認めたが、父母たちの強い反対にあう。
子どもを休ませたり、転校させたりする親が続出した。
R君は、電話で授業を聴講しなければならなくなった。
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